日本人がその意味を捉えにくい英単語の一つが " identity " だと思います。
辞書では自己同一性だとか、自分自身が何であるか、とか記されています。

いやいや、そんな訳だから掴みにくいんですよね。。。
でも、その意味を正確に掴むことは実は日本人には非常に難しいのです。
ということで、identity=アイデンティティとは何かを主語から捉え直してみて、そこから日本人という民族を考えてみようと思います。



皆さんもご存知と通り、英語で一人称を表す主語は " I (アイ)" です。
対して日本語で一人称を表すと。。。

わたし、わたくし、僕、俺、うち、わし。。。
一人称の主語がたくさん。
でも、実は日本人の主語って実はこれ以上に更に多様性を持っています。
皆さん、考えてみてください。

お正月のリビング。3世代が久々に顔を揃えています。
祖父後、両親、孫です。
では、その3世代が揃った空間で2代目である両親は自身の両親である祖父母をなんと呼びますか?

多分、多くの方は経験から両親は自身の親である祖父母を「おじいちゃん」、「おばあちゃん」と呼ぶのだと想像できますよね?
そして祖父母も自身のことをそう呼びます。


では次に、孫がもう寝てしまったとします。リビングには両親、祖父母の2世代しか居ません。
その空間で両親は自身の両親をなんと呼び、祖父母は自身をどう捉えますか?

両親は祖父母を「おとうさん」、「おかあさん」と呼び、祖父母も同じく自身を同じように呼ぶのがい一般的ではないですか???


つまり、孫がいるかいないかによって主語が変わってしまいますし、周囲も同じように相手の肩書きを無意識に変えてしまいます。日本では集団を形成する、もしくは話し相手の基準となる相手により、個人の肩書がそのまま自身を表す主語になり得るのです。



ここから分かることは、日本人が自分自身がどういう者であるかを規定する条件は、その空間を共有する相手に依存しているということです。もっと言えば、日本人は同じ空間、時間を共有している人の中で最も立場が弱い人を基準に自身を立ち位置を規定するのです。
同じ理由で学校では先生が自身や同僚を「先生が」と呼びますが、先生同士の会話で相手の肩書である「同僚」という言葉を主語にしないのは、いつでも目線が生徒にあるからです。


対して英語圏では、ほとんどの場合、自分自身は私= I でしかありえません。
つまり、自分は自分であり、他人に左右されることはありません。
英語圏だけでなく、実はほとんどの言語で立場や職業で主語を表す文化はあまり見られません。
タクシーの運転手さんを "Diriver"と呼びかけることはないです。英語圏ではむしろ失礼ではないかと思います。日本では普通に運転手さん、郵便屋さん、消防士さんと呼びますよね。
でも他の国では運転手はあくまで職業であり、自分や相手を表す主語にはなりえないのです。


同じ理由で、核家族の中で夫婦をお互いに「おとうさん」「おかあさん」と呼ぶことは基本的にありません。なぜなら夫は奥さんにとってやはり夫であり、父親ではないからです。
例えば、旦那の名前ばDavidだとします。奥さんにとってDavidは旦那であり、でもそれ以上にDavidなんです。奥さんにとったら間違ってもDadにはなりません。Dadは自分の父親しかないのです。日本人なら子供を介さずともお互いを「おとうさん」「おかあさん」と呼んでも別に普通ですよね。



ということで、日本人にとって " identity " という言葉が捉えられないのは当然です。
なぜなら上述のように自身を絶対的に規定する文化を持ってないからです。
私たち日本人は、自分自身が何であるか、何者であるかを常に他者を基準に規定してるんです。
なので、日本人は赤の他人と話すことが極端に苦手です。
なぜなら相手が何者か分からないと自分自身の立ち位置も分からないから。
日本人がシャイだとか臆病だとか言われるのはそのためだと思います。



で、結局何が言いたいかというと、僕はそんな日本人の感性が好きだってことです。
別に欧米を基本とする個人主義に同調する必要なんて全くありません。
彼らより若干時間がかかったとしても、相手を理解した上で自身を規定し、そしてその人との付き合いを始める。素晴らしいじゃないですか。と思うのです。


自分のアイデンティティを強く持つことが悪いと言っているのではありません。
でも、私たち日本人は欧米と比べて自己主張が弱いことを卑下するのではなく、むしろ強みと思うほうがいいと思うのです。
相手、特に対象となる集団や相手の中で最も立場が弱い相手を基準に自身と物事を捉えらる日本人。
そんな日本人だからこそできる国際理解や国際協力の形があるんだと思うんです。

決して独りよがりではなく、あらゆる立場の人の背景を考えることを自然と身に付けいる日本人って、紛争が絶えない社会ですごいポテンシャルを秘めていると思います。
噂のトランプ氏が日本人なら話題になる発言のほとんどはありえないと思いますw



実はもう少し言語から日本人の感性を考えたことがあるので、それを次回アップしたいと思います。




日本人っていいですね。